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関係:婚約者と女子高生

新しいPCを買い今までよりスペックも上がり、そこで「蝶の毒華の鎖」というぶっちゃけ大人向けなPC乙女ゲームに出会ってしまったのです。まだほとんど全然プレイしてなくて、キャラやあらすじみたいなものを調べたに過ぎないですが、オープニングムービーや世界観に惚れ込んでしまい、中でもとある婚約者なキャラに創作意欲をバシバシ刺激されてしまって生まれたのが今回のSSです。傲慢強気キャラとかそんなに惹かれるほうじゃないんですが、不思議。もちろん書いている最中は主題歌をリピート。
親の都合などで仕方なく婚約者関係になったけど表面上は恋愛関係はないんだよ、と振る舞い合う関係の良さに最近ちょっと目覚めてしまったかもしれません。仁義なき乙女、というこれまた大人要素のPCゲームにも偽りの婚約者なキャラがいますし。意地や事情で好きを言えない関係性の切なさがツボです。切ないの大好物です。
久しぶりのSSで、さらにPC変わってキーボードの勝手にも慣れない中でしたが、驚くほどすんなりスラスラ書き上げられてしまいました。特に大きく詰まることもなかったので1時間半ほどで書いたんじゃなかろうか……。
先のことをまったく考えずに書き始めたので、いつラブラブっぽい展開になるんだ?このまま彼が帰るんじゃないのか?菓子食うだけで終わり?と書き手ながらにちょっと心配だったのですが、こちらすら予想外なほどにスッと二人が動いてくれました。
最初は題名を「素直な体」にしようと思ったのですが、なんだか大人向けみたいだと思い直して、なんとかピュアな方向へ。でも、なんとなく受け取り方によっては「素直じゃない口」もそれなりにいやらしいかも……と思うのは私だけでしょう(笑)
久しぶりのSSものすごい楽しかったです。書き上げた快感や高揚感を久しぶりに思い出しました。というか自然と体に戻ってきました。日が空いても体も心も意外と忘れていないものですね。書きたい意欲と衝動があれば何とかなる。そんな私の気持ちが少しでも伝われば、読んだ方にも楽しんだり萌えていただけるものになっていれば幸いです。

 SSは「SSを読む」へ

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 ++ 素直じゃない口 ++

 宿題の続きをしていてもかまわない、邪魔するつもりはない、と彼に言われて机に向かっていたものの、背後の突然の訪問者を放っておくのはなんとなく気が引けて、机上のプリントをそのままにして私も彼の前へと座った。
「息抜きにうまい菓子はどうだ?」
 低いガラステーブルには母が用意してくれたお菓子の入った盆と麦茶のグラスがある。その盆を彼は誇らしげに私の前に差し出してきた。
 麦茶の入ったグラスにもお菓子にも手をつけられた様子はない。強引なところの多いらしい彼のことだから、私にかまわずに勝手に食べていると思っていた。私がここに座らなけば、これらはずっと手をつけられないままだったのだろうか。
「あなたが持ってきたものでしょ? そっちこそ食べればいいのに」
「俺は何度も食っている。味も知っている」
 取ろうとしない私に業を煮やしたのか、盆を置いた彼はお菓子の包み紙を食べやすいように剥がし、ほら、と私の口の前へ持ってくる。
 多忙な社長である彼が、どうしてこんな暑いなか女子高生の部屋に来て、お菓子の世話なんかしているのだろう。いくら婚約者だといっても、気持ちの通じ合ってない私たちにとっては父を助ける口実に過ぎないはずなのに。
 自分で食べられる、と彼からお菓子を取り口に入れる。パウンドケーキのようなそれは口の中にしっとりと甘さを広げ、確かにおいしいかもしれない、と口には出さずに認めた。
「うまいだろう? それだけじゃないぞ。それはな、見かけによらず……」一度言葉を切り、意地悪そうな笑みを浮かべながら彼は言った。「カロリーが低いんだ。安心して食ってくれ」
 ダイエットをしているわけではないし、彼の言う通りになりたくはないのに、カロリーが低いと言われると妙に安心してしまう。かといって、即座にお菓子に手を伸ばすのも調子が良すぎるような気がして、なんとなく伸ばそうとした手を持て余す。
「ダイエットしてないし」
「ああ、君には全く必要ない。ただ、太ってようがなかろうが女はカロリーを気にするものだからな」
 そう言いながら、彼がお菓子を一つ取って私の前に置く。あまりに自然な動作だったので、気づけばお菓子が自然に私の前にあったのか、と思ってしまうほどだ。
 黙々と食べる私の顔を見ながら彼はうれしそうに笑っている。恥ずかしさもあったけど、どうしてそんな笑いが浮かべられるのか、そちらのほうが不思議だった。
「なにが、楽しいの? 私そんなに面白い話とかしてないのに」
「菓子、うまいだろう?」
「えっ?……うん」
「だから嬉しいんだ。まあ、君にはわからん。それでいい」
「本当に、わけわからない」
「ははっ、だから、それでいいんだ」
 笑いながら彼もお菓子を取って、やっぱりうまい、と次々に口に放り込み、それらを流し込むように麦茶を飲んで立ち上がった。
「もう帰るの?」
「ああ、俺もこう見えて――」
 その瞬間、息を呑むように、私を見下ろす彼の笑みが消えた。
 驚いた表情で見つめられ、何が起こったのかわからずに私は戸惑ってしまう。
「なに?」
「どんな顔をしているか、君は知っているのか?」
「美人でも可愛いわけでもないのは知ってる」
 苦笑いを浮かべて彼はかすかに首を振る。
「違う。どうして、そんな寂しそうな顔をするんだ」
 そう言われて気づいた。
 そうだ、彼が帰るのを寂しいと思ってしまった。だから、とっさにあんな言葉が口をついて出たのだ。
 彼を満足させられるような話を、単なる女子高生である私には出来るはずはないだろう。それでも、まだ一緒にいたいと思った。何も話さなくてもいい。彼の顔を見たい、空気を感じていたい。
 ただ、彼の見慣れない真剣な眼差しに気圧され、口から出たのはあいかわらず素直でない言葉。
「そんな顔、してない」
「君が言うならそういうことにしておこう。だが……俺は離れがたいと思っている」
 今度は私が息を呑んだ。
 普段は軽くはぐらかすようなことしか言わないくせに、そんな大人の男性の強い目で、怯むことなくストレートな言葉をぶつけてくるなんて卑怯だ。意地や反発をかろうじて保たせていた私の心は簡単に揺さぶられる。
「どうして?」
「それはこちらの台詞だ」
 揺らぎを止めようと必死に握り締めていた両手を彼に引かれる。
 倒れる体の落ち着いた先は彼の胸。
 何も言わずに強く抱きしめてくる腕を、私も拒まずに受け止めていた。
「口は素直じゃないが、君の体は雄弁だな……」
「いやらしい言い方しないで」
「その、いやらしい男から逃げないのか?」
「じゃあ、放して」
「――悪い。もう少しだけ、このまま、頼む」
 先ほどまでのからかうような声ではなく、顔を見なくてもわかるほど弱くすがりつくような彼の声音に、私の体も心も絡め取られる。
 この素直じゃない口の代わりに、好き、の気持ちが伝わればいい、と私も彼の体に腕を回した。


 ◇終◇



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