忍者SS

関係：忍者と姫
場所：姫の部屋
内容：城の者から忍を捕らえたとの話を聞く。彼かもしれない。そう思った姫は彼の訪れを月に祈っていた。

久しぶりの忍者SSです。ネットで忍者イラスト見てたらなんかふと書きたくなったついでにネタも浮かんだので。
後半はキー打つ手を止めて15分悩んだ末に出来たものです。なんかいい展開がなかなか浮かばなくて。最後の彼のセリフにも数分以上を費やしました。そんなこだわりどころもありつつ……ついに彼の気持ちが、ですが姫は気づいたかどうかが密かな見所(笑)
最近のSSではボスと側近女性の関係に浮気していたのですが、やっぱり忍者の彼は好きです。自分で書いてて惚れる(笑)
皆様にも彼の魅力が伝わればいいなと思いつつ、今回も楽しんでいただければ幸い。

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　++ 想い ++

　いつもと変わらぬ月に彼の訪れを祈っていた。
　黒い影が音もなく目の前へと降り立った瞬間、私は腕を伸ばして抱きつく。
　彼は無言で体をよじって逃げようとするけど、ひたすらしがみついている私に諦めたのか、やがて体の力を抜いた。どうしたのか、と問うこともなくじっと私の腕に体を預けている。
　彼の鼓動を耳元で聞きながら、私はようやく口を開く。
「城の者が忍を捕らえた、と……ためらうことなく毒を飲み干したと聞いて……私」
「我ではない」
「もう、会えないかと思って……怖かったの」
「……此処にいる」
　だから安心しろ、と言われているような気がして、彼の言葉でためこんでいた涙が溢れる。
　慰めの言葉も何もなかったが、動かぬ彼の優しさが私の体を包んでいた。


　装束が十分すぎるほどの涙を吸い込んだ頃、ようやく私は彼の体を解放した。
「勝手に泣いて……ごめんなさい」
　濡れているであろうあたりを見下ろし、何も言わずに彼は顔をあげる。
「あなたも毒を持っているの？」
　本当にかすかだったが彼の首が縦に動いた。
「捕まることがあれば、死を選ぶのね？」
　今度は彼の口も首も動くことはなかった。だが、返事を聞くまでもなく、彼が肯定することはわかっていた。私にはわからない、忍なりの覚悟が背後にはあるのだろう。
　忍である彼を想ってしまった時から、私の中にも一つの決心があった。机上にあった文箱から、紙に包まれた丸薬を取り出して彼へ差し出す。
　受け取った彼は鼻へと丸薬を近づけた。
「これは……」
「私も持っているの。あなたに心と体を捧げるために」
「光が影に？……愚かな」
「嫁ぐことは叶わないのでしょう？」
　握り締めた彼の手の中で丸薬の崩れる音がした。
「おぬしは……城の娘だ」
「あなたは忍。だから……」両手でゆっくりと彼の手を広げると、乾いた粉が風に舞った。「想いを捧げる方法がこれしか思い浮かばないの」
　大きな手に自分の手を重ねる。毒の粉がざらりと彼の手の感触を阻む。
　握ることもせず、彼は重ねられた手を見下ろしていたが、やがて私の手を返し、小さな巾着を乗せた。開くとそこには黒い玉が三つ。
「これは……？」
「生を絶つもの」
　私の手にのっているものは毒の玉なのだ、と理解できた。なぜ、彼はこれを私に渡すのだろうか。
「どういう、こと？」
「我の命をおぬしに預ける」
「命？　でも、そんな大切なもの……」
　そこまで言ってから、彼の言葉の奥にあった意味に気づいた。彼が私の知らないところで死ぬことはない、ということ。私の不安を払拭するには十分すぎる言葉だった。
　玉を入れた巾着を文箱へ入れ、私も残りの丸薬を彼へと渡した。
「私の命もあなたへ預けておきます」
「命にはならぬ」
　えっ、と聞き返した瞬間、彼へ渡した丸薬が口に放り込まれる。吐き出す間もなく、異物を唾液が反射的に喉の奥へと流していった。
　頭にもやがかかり、体は浮いたように不安定になる。
　伸ばされた彼の腕に倒れこんだ。
「我の想い、常におぬしの傍に」
　彼が低い声でそう呟いたような気がした。
　それが夢か現実か判断するだけの思考はもうすでにない。
　彼の腕に体を預けるように私は眠りの中へと落ちていった――。


　―了―


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