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関係:買った男と買われた女
場所:ホテルの一室
内容:私を買う、と言った彼のもとへ行く。本当はお金ではなく彼の心が欲しいのに――。

私がとあるアジア映画の予告編に惚れこんだ経緯は前回までの日記を見ていただくとして……(笑)
予告編とあらすじで妄想膨らませ、アジア映画の雰囲気みたいな静かな恋愛、描写たっぷりの艶やかな文章が書きたい、と思った結果できあがったのが今回のSSです。
映画が年の差な感じなのでSSの関係も年の差……のつもりではありますが、カップリングは読まれた方でお好きにご想像ください。
後半はセリフよりも描写たっぷりで、主人公たちの行動的にもエロじゃない大人向けな感じです。静かで艶やかな雰囲気を醸し出せたんじゃないかと自分的に満足。書きながら泣きそうになるくらい作品世界に没頭してしまいました。
中国映画から触発されたSSなのでタイトルをネット翻訳を利用して中国語にしてみました。ええ、まあ、自己満足です(笑)

読んでみようと思った方は「SSを~」をクリック

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 ++ 離別的接吻 ++

 彼へと続くドアの前、ノブにかけた手は動かない。ホテルの一室に入るだけのことだと頭ではわかっているけど、私の心が逆らっていた。
 何度も会い、多くの嘘と時には真実を重ね、ようやく一晩を共にするところまでこぎつけたのだ。ここで帰ってしまえば全てが無駄になる。
 いまの私にお金は必要だ。彼はそれを有り余るほど持っている人。体を買う、と彼は言った。私は『商品』を彼のもとへ届けなければいけない。
 彼は私の『心』に用はないのだから、期待は捨てなければいけない――。
 深呼吸を繰り返していた時、ドアが中から開いた。とっさに手を引いて後ずさる。
 ドアを開いた態勢のまま私を見下ろし、
「金は用意してある。入るんだ」
 彼は顎で入れとうながす。
 室内には彼が先ほどまで吸っていただろう煙草の香りが漂っていた。以前は嫌煙の私だったけど、今では彼の煙草の匂いだけはわかるようになっている。
 ドアを閉め後ろから歩いてきた彼が、私のコートに手をかける。思わず手でつかんで制すると、彼の苦笑する声が聞こえた。
「不安なのか?」
「……いいえ」
 ゆっくり手を緩めると、彼は手馴れた様子で私からコートを剥ぎ取り、バッグと共にベッドへと放り投げる。
 首筋に彼が顔を埋めてくるのを感じた。何か色っぽい声でも出そうと思ったけど、すぐにその顔は離れていく。
「香りがきついな」
「えっ?」振り向くと彼の顔が近くにあった。「……何もつけていないわ」
「シャワーを浴びてくれないか」
「お風呂に入ってきたから必要ないでしょう?」
 そう言っただけなのに、なるほど、と彼がくすりと笑った。
 息がかすかに頬にかかる。少しくすぐったい。
 私をその場に残し、彼がベッドへと座る。
「気が失せた。少し話をしよう」
 彼の言葉に緊張していた空気が崩れていく。
 いきなりの展開に驚いてはいたけど、彼が離れたことに私は正直ホッとしていた。私も手近な椅子に座る。
「単刀直入に言う。君にこういうことは不向きなようだ」
「関係ないわ」
 突然の宣告で受けた動揺を表面に出さないため両手を握り締めたけど、これだけ言うのが精一杯だった。
「私にも、向いていないようだ」
「だって、あんなに……」
 いつだって、女の扱いには手馴れているように見えていた。
「女を抱くのは慣れている」
「それなら……」
「君の香りの向こうに見える生活感に……罪悪を感じた」
「あなたは私を買った。そうでしょ?」
 立ち上がった彼は、置いていた鞄から銀行の封筒を取り出す。
「後日、これに上乗せする」そう言って彼は封筒を差し出した。「……もう、終わりだ」
 厚い封筒には一体どれだけの額が入っているのだろう。私はいくらで彼に見限られるのだろう。
 受け取れば、私も承知したことになる。手を出せない。
「いらない、わ」
「無理をするな」
 膝の上に封筒が置かれる。私がどれだけ働いても手にすることのできないであろう額が、紙切れの束のように無造作に膝に乗っている。
 お金は必要だ。まさに喉から手が出るほど欲しかった。封筒を開けて金額を数え、足りない分を彼に言えば、今まで費やした多くの時間は報われる。
 お金と別れを切り出す彼を前にして、陥落した自分の心から目をそらせなくなった。だけど、情けなくすがりつく姿は見せたくない。彼の前では美しい女性でいたい。
 手に取った封筒の重さが心にのしかかる。
 彼の横を通り、ベッドに放り出されたままのバッグとコートを取る。
 早くこの部屋を出なければいけない。
 彼と目が合うこともなければ、その口から言葉が発せられることもない。期待は捨てろとでも言うかのように、彼はかたくなに背を向けていた。
 すがりつきたくなる背中を振り切るように、私も体を反転させ歩を進める。
「私に金がなければ君は……」
 足を止めた。続けられる言葉を待ったけど、それ以上聞こえることのない彼の声が、私の中の期待を消していく。
 彼は今、どんな表情をしているのだろう。
 おそるおそる振り向けば、こっちを向いている彼がいた。さっきは全く目を合わさなかったのに、今はそらすことなく私を見つめている。
「行くんだ、早く」
 言葉は確かに私を急かしている。でも、彼の眼差しは私を引き止めようとしているように見えた。
 引き寄せられるようにゆっくりと彼へと近づく。
「何をするつもりだ」
「別れのキスを」
 私の行動に虚をつかれ固まっている彼の頬へ指をすべらせる。
 顔を近づけてはじめて、彼の唇が震えていることに気づいた。いつもは冷静な彼が感情を露わにしている。私に対する何かしらの思いが彼を動揺させているのだろう。優越感にも似た歓喜が胸にわきあがる。自然と口元が緩んだ。
 一点に視線を定めていた私は気づかなかった。
 いきなり顎を強くつかまれ、思わず出た小さな悲鳴は、強引に口づけてきた彼の唇の奥へ吸い込まれていく。
 抑えていた何かをぶつけるように、彼の唇と舌が私の口内を蹂躙する。
 彼の首に手を回したものの、片手だけでは物足りない。持っていた物を足元に落とし、彼の髪をかきむしるように両手で必死にすがりつく。無我夢中で彼の舌を、唾液を貪った。
 想像以上の言葉にならない充足感に、自然と涙がこぼれる。彼がこうして求めてくれるのを待っていたのだ。
 やがて唇を離した私たちは、荒い呼吸を繰り返しながら見つめあう。
「別れのキスではなかったわ」
「……そうだな」
 彼の唾液と共に飲み込んだはずの嗚咽が喉から溢れてくる。
「終わりたく、ないの」
 彼の腕が、そっと私の頭を抱え込む。
「私もだ」
 頭上から、低く呟く声が聞こえた。


 ◇終◇

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読んでくださってありがとうございました。よかったらコメント欄などから感想の声を聞かせてください。今後の創作の励みにさせていただきます。
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