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関係:元クラスメイト

今回は珍しく「このシーンが書きたい」と思って書いたものではないような気がします。一晩経ってみると、昨夜どうしてあんなに衝動に押されたのか、と思うくらいに「これ!」といったものがないんですよね。うーん……チョコ渡すまでの雰囲気を書きたかったのかもしれませんが……うーん。
きっかけは「昔の同級生に久しぶりに会ってスーツ姿だったらドキッとする」を書きたかったのです。そこにバレンタインを絡めてみたり、中学の時に告白せずに終わった片思いの記憶を掘り起こして、色々と混ぜていったら今作ができあがりました。
今回は完全に学生時代の片思いを懐かしく思い出しながら書いたので、私と同じく、学生時代を過ぎてしまった方の想い出を振るわせることができれば嬉しいです。もちろん、現役の学生さんにも楽しんでいただけるものになっていればいいんですが、なんだか今回はちょっと自信がありません。執筆中の頭の中は学生時代やらを回想しまくっていたので。あ、思い出世界と作品世界をウロウロしていたので、執筆中に何を思っていたのかいまいち記憶がないのかもしれません。本当にどういう衝動に押されたのか半分以上覚えてないんです。
タイトルは執筆途中でふと思いついたものをそのまま採用しました。相変わらず、作品の内容そのままのタイトルですが……。
……と、私の作品に対するウダウダはさておき、色々な年齢層の方に楽しんでいただける作品になっていれば嬉しいです。
初々しいのを書いたので今度は大人っぽいのを書きたい今日この頃。

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 ++ 遅れたチョコ ++

 自分が男子と付き合うなんて考えたこともなかった中学の頃、告白せずに終わってしまった片思いがある。
 ふいに、そんなことを思い出してしまったのは、仕事帰りに立ち寄った店に散りばめられたハートマークのせいかもしれない。
 偶然会えるわけもないのにバレンタインチョコを買った私の心は、たぶん今でも『中学生の彼』に捕らわれたままなのだろう。あの頃、そこまで彼を好きだったのか、もし彼から告白されていたら付き合ったのか、自分でもわからない。
 小さな紙袋を持って、帰宅時間で混み合う電車に乗る。なんとなく期待して車内を見回したけど、もちろんながら彼は乗っていない。やっぱり、と内心で呟きつつ、疲れに押されて瞼を閉じた。


 バス停に向かう人、駐輪場に向かう人、そのまま徒歩で帰る人、駅からはいろいろな方向へ人が流れていく。
 駐輪場から出てきた自転車が、歩いて帰る私を追い越していく。軽やかに帰る人を少し羨ましく思いながら見ていた私の目に、あるスーツ姿の男性が入り込んできた。
 街灯だけの薄暗い道路で、一瞬だけ見た横顔に私の心が確信を告げている。

 ――彼、だ。

 自転車に乗ったその人に追いつけるわけがないのに、パンプスを履いた私の足は走り出していた。
 彼の姿はどんどん遠ざかっていく。私は走り続ける。
 横断歩道の赤信号で、片足をついて彼は停まっていた。奇跡のような偶然にすがるように、息を切らしながら私は彼の腕をつかむ。
「すいませんけど……誰?」
「中学……同じクラスで……憶えてる?」驚く彼の顔を目の当たりにして、我に返った私は腕を放す。「わけない、よね。数年以上経ってるし……こちらこそ、いきなりごめんなさい」
 信号が青に変わる。不審な私を置いて、そのまま彼は走っていってしまうだろう。
 でも、自転車から降りた彼は、自転車と共に道路脇の閉まった店の軒先に入る。
「いや、憶えてる。名前もわかる」
 通り過ぎる車のライトが、彼の姿をはっきりと見せてくれる。
 中学の頃とあまり変わらない短い黒髪、着慣れているのだろうスーツ、無造作に自転車のカゴに放り込まれた通勤鞄。
 見慣れない彼の姿に、今と昔の私、二人分のドキドキが押し寄せてくる。
「なんか、ごめん、ね。えっと、久しぶり」
「久しぶり。仕事? 帰り?」
「うん、仕事の帰り」
 自分から呼び止めたくせに、何を話せばいいのかわからない。社会人になって話題もスラスラと出せるようになったのに、彼の前になると中学生の私に戻ってしまう。
「走ってきて……俺に何か用? もしかしてバレンタインチョコ? そんなのあるわけないな。彼氏宛てだろっての。もしくは上司に配った残りとか」
 あの頃の彼はこんなに軽やかに話す人だっただろうか。でも、空気がほぐれたのがわかる。同時に、女子が放っておかなかっただろう、と少し寂しくなった。
「彼氏はいない。チョコ渡そうと思って。……本当に渡せばよかったのは中学の時なんだけど。彼女がいて迷惑なら受け取らなくてもいいし……」
 持っていた紙袋――ずっと抱え続けていた気持ちを差し出す。
「嘘だろ? 今さら、そんな……」
 言葉を途切れさせたまま、彼はじっと紙袋を見つめている。
 私たちは互いに付き合う相手がいても、結婚していてもおかしくはない年齢だ。数年経てば状況も変わる。
「あ、そっか、彼女に悪いよね。自分勝手で悪いけど、中学の時からずっと言いたかったから、言えただけでスッキリしたかも。チョコは気にしなくていいよ。自分が食べたいと思うもの買っただけだし……うん、ごめんね、本当に」
 私の気持ちがどうであれ、やっぱり時間はきちんと過ぎていた。告白するには、チョコを渡すには遅すぎたのだ。
 ごまかすように笑いながら紙袋を引っ込めようとした瞬間、彼が袋のヒモをつかんだ。
「いや、もらう」
「え、無理しなくていいから」
「無理してない。マジでもらう」
 真剣な眼差しで強くヒモを握る彼に観念して、私はそっと手を離した。
 紙袋を開いて中を見た彼は、ありがとう、と小さく呟いて、袋を自転車のハンドルへと引っかけ、また私と向き合う。
 妙な沈黙で気まずいけど、まだ離れたくなかった。何も話さなくていい。一緒にいたい。
 ふいに黒い携帯電話が差し出される。
「メアド交換……しとく? 彼女いないし、俺」
「いいなら……させてもらおうかな」
 彼と携帯電話を向かい合わせると、画面には「赤外線通信中」の文字。
「言ってくるの、ずっと待ってたかも、な……」
 私と同じように携帯電話を見下ろしながら彼が話し始める。
「卒業しても何も言ってこなかっただろ? 俺がうぬぼれてただけかって……」
 彼のメールアドレスが私の携帯に入る。今度は私がメールアドレスを送信する。
「薄々は気づいてたし、ちょっと意識もしてた。好きだったかはわからないけど……」
 メールアドレスを確認して、互いに携帯電話を閉じる。
「偶然会って、久しぶり、で終わりたくないと思った。悪いけど、今はそれしか言えない」
「私もそう思ってた。今は、それだけで十分」
 ずっと、彼の答えを、気持ちを聞きたかった。
「……ありがとう」
 笑顔と共に無意識にこぼれた言葉。
 心の底で放り出されたままだった『中学生の私』が微笑んで消えていった。


 ◇終◇


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