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関係:侍とスリ娘
きっかけは、父が見ていた「水戸黄門」です。私はその時に初めて見ました。原田龍二がかっこよかった。実は中学の時からかっこいいと思っている人です。
……で、先日水戸黄門を見られた方ならスリ娘が出ていたのを憶えてる人もいるかもしれません。宝探しがどうこうの回です。
和風もの書きたいモードの時にあの娘さんを見てしまったので、こんな娘さん書きたい、の一心で今回のSSを書き上げました。
忍者やくノ一みたいにシリーズっぽくはならないと思います。おそらく今回だけのカップル。
普段の和風ものと同じく、しっとりとした雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
きっかけは、父が見ていた「水戸黄門」です。私はその時に初めて見ました。原田龍二がかっこよかった。実は中学の時からかっこいいと思っている人です。
……で、先日水戸黄門を見られた方ならスリ娘が出ていたのを憶えてる人もいるかもしれません。宝探しがどうこうの回です。
和風もの書きたいモードの時にあの娘さんを見てしまったので、こんな娘さん書きたい、の一心で今回のSSを書き上げました。
忍者やくノ一みたいにシリーズっぽくはならないと思います。おそらく今回だけのカップル。
普段の和風ものと同じく、しっとりとした雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
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++ 理由 ++
河原の大きな石に腰かけ、手に持った袋から転がり出る金を数える。
「まあ、こんなものだね」
金を自分の袋へ移し変え、いらなくなった袋は川へと放り投げた。
投げた袋は私のものではない。人様の懐に入っていたものを拝借したのだ。
茜色の空に向かって大きく伸びをし、石から立ち上がり体を反転させた私の目の前には一人の男が立っていた。一つに結った髪をなびかせ、腰には刀――出会いたくない相手に出会ってしまったらしい。
「あんた、なに?」
「じいさん、太った男の二人連れ……」
驚いた。彼が挙げたのは、私が懐に手を忍び込ませた相手の特徴だ。
懐に入れていた短刀を出そうと思ったが、剣の心得のある相手ににわか仕込みの腕など通用しないだろう。なにより、相手が刀を抜いていないうちから斬りかかるわけにもいかない。
「……あたしをどこかに突き出すつもり?」
問答無用で斬りかかる相手ではなさそうだ、と判断し、会話を試みる。
「そのつもりはない」
「あたしがやってること、知っているんだろう?」
「ああ、ここでよく見かけていた」
「用は……何だい?」
「お前にこれをやろうと思って来た」
彼は袖の下から袋を取り出し、私へと差し出してきた。
おそるおそる受け取ったそれはずしりと重い。中身が何かは見なくてもわかった。
――金だ。
「あたしなんかに……あんた、どうして……?」
「俺は近々、戦で死ぬ身だ。屋敷は両親にくれてやった。老いた身には多少の金もいる。それは余ったものだ」
「あんた、お侍さん、か? でも、そんな身分なら嫁さんが……」
「あいにく、妻も囲っている女もいない」
金は喉から手が出るほど欲しいものだが、いきなり無条件に大金を渡されると戸惑ってしまう。
袋を男へと押し付ける。
「死ぬって言うなら、女でも買えばいい。お侍さんが貯めた金だ、あたしなんかに使うもんじゃないよ」
「ふむ……一理あるな」
私の手から袋を受け取った彼は、しかし再び差し出してきた。
「では、お前を買おう」
「いらないよ」私より高いところから見下ろす彼を睨みつけた。「どんなに貧しくても、あたしは体だけは売らない」
「そんなものはいらん」
私の敵意をたった一言で彼はさらりとかわしていった。
彼の真意が全く読めず、私はただ袋を差し出したまま差し出す人を見つめていた。
「理由が必要だと思ったから付けただけだ。お前が受け取るならば何でもいい」
初対面の女なのに、なぜ彼はこうまでして金を渡そうとしているのか。
受け取れないのは理由がないからだけではない。彼の思いや覚悟まで込められている気がして、その重さに尻込みしてしまうのだ。
「どうして、あたし、なんだい? お侍さんみたいな色男なら女が放っておかないだろう?」
そう、彼の顔の造作は悪くはない。目を伏せるように私を見つめる眼差しは美しいとさえ感じてしまう。
無表情だと思われた彼の口元が少しだけほころんだ。
「ふっ……色男など戦では何の役にも立たん。お前も……いい女だ。金も惜しくない」
久しく味わっていなかった頬の熱が体中に広がっていく。聞き慣れない言葉が、視線と心をおかしくする。彼はどういうつもりで言っているのわからないが、まともに受け取っていては心臓が持たない。
「何が目的か知らないけど、お侍さんの金なんざ受け取れないよ」
死ぬ男に惚れてしまわないよう、心が揺れてしまわないよう、金を受け取らないのは私の精一杯の虚勢だった。
だが、彼は差し出した袋を引かない。
「お前の記憶の一部を買おう」
「……えっ?」
静かな呟きの意味がわからず問い返す。
「俺を憶えておいてほしい、お前に……憶えていてほしい」
哀しみの宿った瞳に吸い寄せられるように、気づけば袋を手に取っていた。憶えておくくらいならいい、と思ったから。だが、たとえ私が憶えていたところで――。
「お侍さん、あんた死ぬんだろう?」
「そうだな」
「ずっと気になっていたことがある。最後に聞かせて。あたしに……惚れてるのか?」
彼は答えず、山の間からかすかに覗く夕日に目を移す。
やがて、山の間に完全に夕日が沈んだ頃、そうだ、とだけ彼は答えた。それだけで十分だ。
受け取った袋を男の前で振って鳴らす。
「お侍さんになら売ってもいいよ、あたしの体。だからさ……生きて帰ってきなよ。あたしが待ってるから」
死に行く人への同情か、それとも恋情かはわからないが、ただ、彼になら体をあげてもいいと思えた。
「……そんなものはいらん」
ふわりと紺色の袖に私の体が包まれる。
「じゃあ、気持ちをあげる」
「俺に惚れたのか……?」
「わからない。戦から帰ってくるまでに考えておくよ。だからさ……」
「必ず帰ってくる」
彼の腕に力がこめられる。
愛しい人になるであろう彼の体を、私も強く抱きしめた。
―了―
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読んでくださってありがとうございます。
よかったらコメント欄などから感想の声を聞かせてください。
今後の創作の励みにさせていただきます。
++ 理由 ++
河原の大きな石に腰かけ、手に持った袋から転がり出る金を数える。
「まあ、こんなものだね」
金を自分の袋へ移し変え、いらなくなった袋は川へと放り投げた。
投げた袋は私のものではない。人様の懐に入っていたものを拝借したのだ。
茜色の空に向かって大きく伸びをし、石から立ち上がり体を反転させた私の目の前には一人の男が立っていた。一つに結った髪をなびかせ、腰には刀――出会いたくない相手に出会ってしまったらしい。
「あんた、なに?」
「じいさん、太った男の二人連れ……」
驚いた。彼が挙げたのは、私が懐に手を忍び込ませた相手の特徴だ。
懐に入れていた短刀を出そうと思ったが、剣の心得のある相手ににわか仕込みの腕など通用しないだろう。なにより、相手が刀を抜いていないうちから斬りかかるわけにもいかない。
「……あたしをどこかに突き出すつもり?」
問答無用で斬りかかる相手ではなさそうだ、と判断し、会話を試みる。
「そのつもりはない」
「あたしがやってること、知っているんだろう?」
「ああ、ここでよく見かけていた」
「用は……何だい?」
「お前にこれをやろうと思って来た」
彼は袖の下から袋を取り出し、私へと差し出してきた。
おそるおそる受け取ったそれはずしりと重い。中身が何かは見なくてもわかった。
――金だ。
「あたしなんかに……あんた、どうして……?」
「俺は近々、戦で死ぬ身だ。屋敷は両親にくれてやった。老いた身には多少の金もいる。それは余ったものだ」
「あんた、お侍さん、か? でも、そんな身分なら嫁さんが……」
「あいにく、妻も囲っている女もいない」
金は喉から手が出るほど欲しいものだが、いきなり無条件に大金を渡されると戸惑ってしまう。
袋を男へと押し付ける。
「死ぬって言うなら、女でも買えばいい。お侍さんが貯めた金だ、あたしなんかに使うもんじゃないよ」
「ふむ……一理あるな」
私の手から袋を受け取った彼は、しかし再び差し出してきた。
「では、お前を買おう」
「いらないよ」私より高いところから見下ろす彼を睨みつけた。「どんなに貧しくても、あたしは体だけは売らない」
「そんなものはいらん」
私の敵意をたった一言で彼はさらりとかわしていった。
彼の真意が全く読めず、私はただ袋を差し出したまま差し出す人を見つめていた。
「理由が必要だと思ったから付けただけだ。お前が受け取るならば何でもいい」
初対面の女なのに、なぜ彼はこうまでして金を渡そうとしているのか。
受け取れないのは理由がないからだけではない。彼の思いや覚悟まで込められている気がして、その重さに尻込みしてしまうのだ。
「どうして、あたし、なんだい? お侍さんみたいな色男なら女が放っておかないだろう?」
そう、彼の顔の造作は悪くはない。目を伏せるように私を見つめる眼差しは美しいとさえ感じてしまう。
無表情だと思われた彼の口元が少しだけほころんだ。
「ふっ……色男など戦では何の役にも立たん。お前も……いい女だ。金も惜しくない」
久しく味わっていなかった頬の熱が体中に広がっていく。聞き慣れない言葉が、視線と心をおかしくする。彼はどういうつもりで言っているのわからないが、まともに受け取っていては心臓が持たない。
「何が目的か知らないけど、お侍さんの金なんざ受け取れないよ」
死ぬ男に惚れてしまわないよう、心が揺れてしまわないよう、金を受け取らないのは私の精一杯の虚勢だった。
だが、彼は差し出した袋を引かない。
「お前の記憶の一部を買おう」
「……えっ?」
静かな呟きの意味がわからず問い返す。
「俺を憶えておいてほしい、お前に……憶えていてほしい」
哀しみの宿った瞳に吸い寄せられるように、気づけば袋を手に取っていた。憶えておくくらいならいい、と思ったから。だが、たとえ私が憶えていたところで――。
「お侍さん、あんた死ぬんだろう?」
「そうだな」
「ずっと気になっていたことがある。最後に聞かせて。あたしに……惚れてるのか?」
彼は答えず、山の間からかすかに覗く夕日に目を移す。
やがて、山の間に完全に夕日が沈んだ頃、そうだ、とだけ彼は答えた。それだけで十分だ。
受け取った袋を男の前で振って鳴らす。
「お侍さんになら売ってもいいよ、あたしの体。だからさ……生きて帰ってきなよ。あたしが待ってるから」
死に行く人への同情か、それとも恋情かはわからないが、ただ、彼になら体をあげてもいいと思えた。
「……そんなものはいらん」
ふわりと紺色の袖に私の体が包まれる。
「じゃあ、気持ちをあげる」
「俺に惚れたのか……?」
「わからない。戦から帰ってくるまでに考えておくよ。だからさ……」
「必ず帰ってくる」
彼の腕に力がこめられる。
愛しい人になるであろう彼の体を、私も強く抱きしめた。
―了―
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プロフィール
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水月
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女性
自己紹介:
年齢:30代前半
在住地:近畿地方
執筆歴:15年ほど
執筆ツール:WinXPノートパソコン
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