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関係:武将とくノ一

昨夜、某動画サイトにある忍者アニメのMADを見て号泣し、「何かすごく切ないの書きたい!いや書く!」と決め、MADで使われてた歌を1曲リピートで BGMにしながら、何も決めずに勢いのままにパソコンに向かって無我夢中で吐き出したもの、が今回更新したSSです。溢れ出そうになる激情を書きたかったので、しっとり担当の忍者と姫ではなく、色っぽい担当(のつもり)のくノ一の彼女を選びました。
くノ一と彼の話は、前回(雨)をあんな終わり方にしたので「どうしたものか」とずっと放置状態になっていたのですが、勢いとはいえ続きを書くことができてちょっとホッとしてます。関係としては進んではいませんし、ますます「どうすりゃいいんだこの二人」という状態にはなっていますが(笑) 私的にはいい方向に持っていってあげられたな、と思ったりもして。
久しぶりにこの二人書けて本当に楽しかったです、気持ちよかったです。作品を通して、少しでも私の中の衝動が伝われば嬉しいです。

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 ++ 手放したもの ++

 男の唇が私の肌をすべり、手が私の腿をつかんで持ち上げる。
 男に抱かれなければならない時、いつも脳裏に浮かべる顔がある。彼を思い出すと、不思議と体に熱がのぼり、わずかな時間だが相手に心をやることもできる。
 彼はどのように女を抱くのだろう。昇りつめる時にどのような声を出すのだろう。
 そうして彼で頭を満たし、今宵も別の男を迎え入れて私は果てた――。


 口移しで飲ませた眠り薬が効いているのか、男は目を覚まさない。
 夜具の傍に脱ぎ捨てられていた男のものに着替え、男の使いだ、と宿の者に告げて暗闇の中へ足を踏み出した。
 笠を目深にかぶり、堂々と道を歩く。こそこそと走ればかえって怪しまれるのだ。
 一人の男の横を通り過ぎる時、ふいに腕をつかまれ、細い道へと連れ込まれた。刀の柄に手をかけて振り返れば、そこには先ほどまで脳裏にいた彼の顔がある。
「男、か?……すまぬ。知った香りに似ていた」
「……いえ」
 手を離してくれるだろう、と思ったが、彼は笠を指ですくい上げ、じっと私の顔を覗きこんでくる。わずかに近づく酒の匂い。
「……すまぬ」
 そう告げた彼の口が、私の唇に重なった。
 私とわかっているのか、それともまだ男と思っているのか。頭には疑問が浮かんでいるというのに、唇は久しぶりの感触を静かに受け入れていた。
 唇を離し、彼はじっと私を見下ろしている。
 女だと――私だと気づかれただろうか。つかまれたままの腕が熱い。
「今宵一晩、おぬしを抱いて眠りたい。男にこのようなことを言われるのは恥辱かもしれぬが……知った女に似ている。離したくない。無理ならば、酔いの戯言と笑って俺を置いて去ってくれてよい」
 私をつかまえていた熱が離れていく。だが、彼の目は手よりも強く私を引きとめようとしている。
 酔っている彼は、通りすがりの男に声をかけてしまうほど私を求めているのだろうか。
「知った女とやらを抱かれれば……」
 女だと悟られぬように声を押し殺して訊ねる。
「抱けぬ……抱いてはならぬ女なのだ」
 彼は悲しげに首を振り、やがて口の端をゆがませて笑った。
「それで男に声をかける、か。……ははっ、目が覚めた。……引き止めてすまぬ、な」
 求める女は目の前にいるというのに、彼は背を向けて去っていこうとする。
 私だと気づいてほしかったのか、それとも、ただ彼を離したくなかったのか――。
 脳裏でずっと追い求めていた彼の背に体を寄せた。ゆるんでいた笠が足元へ落ち、収めていた髪が肩へと流れていく。
「おぬし……何、を……」
「男なら、抱けるのでしょう?」
 そう彼の背に向けた声は私の――女のものだ。
 勢いよく振り返った彼は、私の肩を強くつかんで睨むような目を向ける。
「お前は……」
 私だとわかったとたん、あの甘い視線も声もなくなってしまった。
「今の私は通りすがりの男よ。男なら抱けるのでしょう?」
 男相手なら、あんな頼みごともできるのでしょう?
 『私』を抱いてほしいと心で願いながら、言葉では必死に『私』を殺そうとしている。
 あの雨の日、手放したはずの背にこうしてすがりついてしまっている。
「いや、お前は……抱かぬ」
 彼が、軽く肩を押すように私を突き放した。向けられた視線から伝わってくるのは、拒絶。
 あの日、私の手放したものがくっきりと形を成して現れたような気がした。
「私が欲しいのでしょう? 求めているのでしょう?」
 はっきり言われていて、なお、わずかな期待にすがりついている私は、彼に何を求めているのだろう。こんなことを聞いたところで、彼が頷いてくれることはない。
 彼の瞳がかすかに穏やかに揺らめく。その首は縦に振られた。
「ああ……ずっと、お前を欲していた、求めていた。……だが、もう過ぎたことだ。今宵は酒にのまれて思い出したにすぎぬ」
「香りに包まれて思い出に浸ってみたいとは……思わないの?」
 胸元に指をすべらせて、見せつけるように襟をゆるめる。
 正直な彼の気持ちが嬉しかったはずなのに、素直に言えないのは、『女の体の使い方』を憶えてしまったからだろうか。
 彼の目にまた鋭さが戻る。こうなることはわかっていた。だが、出てしまった言葉はもう戻せない。
「誘っても何も出さぬ」
「何もいらないわ。ただ、私は、あなたに……」
「……本気、か?」
 何も言えなくなった。本気だ、と、その一言さえ口に出せれば、彼は私を抱いてくれる。だが、抱かれればもう私は――。
「お前がくノ一でなければ……」
 そう、私はくノ一であり、体はあくまで任務に使われなければならない。一人の男に捕らわれて使い物にならなくなった、などということは避けなければならないのだ。
「ただの通りすがりの男なら、一夜限りで終われたのに」
 ゆるめていた襟を寄せて握り締める。そうしないと彼に触れてしまいそうだ。
 ふっ、と彼が笑う。
「お前に似てるなら、一夜限りでは終わらぬ」
 どうやら、私の馬鹿な想像に付き合ってくれるらしい。
「そうね。でも、それなら毎晩あなたに……」
 そこまで言ったとたん、私たちの顔から笑みが消える。
 何も言わず、彼が先に背を向けた。
「酔うたまま、お前を抱いて眠りたかった」
 それだけを残して彼は足早に去っていく。
 その背にしがみつけば、今度こそ離れられない。
 流したままの髪をまとめ、落ちた笠を拾いあげる。
「私も……抱かれたかったわ」
 目からこぼれるものを隠すように、笠を深くかぶって私も歩き出した。


 ―了―


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読んでくださってありがとうございます。
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今後の創作の励みにさせていただきます。
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