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関係:お嬢様と……
場所:彼の仕事場

前回のSSの続きになります。
彼の仕事ぶりを見つめるお嬢様、という案は前回にも書いたネット友達とのチャットの時に出ていたのですが、これをSSにすることはないだろうな、と思ってました。
で、いつものようになんとなく書き始めたわけですが、「どういう展開にしよう」と思ってましたし、途中でボツにしようかとすら思いました。いや、一度は「お風呂上がったらアレはボツにしよう」と決意してました。なのに、気づいたら書き終えていたという……(笑)
前回の夜とはまた違う二人の夜を感じてもらえればな、と。
読み終えたら、たぶんきっとその後の二人があれこれ浮かぶと思われます。書き終えた今、私の脳内にもいろいろ浮かんでます。ただ、SSにするほどの気力ないので……料理長と彼を想像するもよし、同僚のざわめきを想像するもよし、彼女を運んだ彼の心境を想像するもよし……文字にしない不精者の私に代わってお好きに想像して楽しんでやってください(笑)

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 ++ 仕込み ++

 深夜、切り分けた野菜を鍋に入れていく彼の背を見る。
 彼は一度もこっちを見ないけど、私なんかに構っていられない、というその姿勢こそが心をくすぐるのだ。
「……面白いですか?」
 呆れるようにそう言って、彼がようやくふりむいてくれた。
「そうね……不思議と飽きないわ」
「こっちは落ち着きませんがね……」
 十五分経った末の会話はそれで終わった。彼はまた鍋へと体を向ける。
 今晩は彼が『仕込み当番』らしい。一晩かけて一人で行うものだ、と聞いたので私もこうして同行している。といっても、手伝うほどの技量もないので、ただこうして彼の後姿を眺めているだけ。
 仕事をしている姿をずっと見ていられる贅沢に浸りながらも、父がいつも『会社には来るな』と言っていたことを思い出す。作業を続ける彼の背に勇気を出して聞いてみた。
「ここにいたら邪魔?」
「それなら、とっくに追い出してますよ」
「そう……よかった」
 安心したら、自然とそんな言葉が出ていた。
 ここは彼の仕事場とわかっているし、私が追い出されても仕方がないとわかっていても、やっぱり彼の口から邪魔だと言われるのは悲しい。
 私をほったらかしの背中をじっと見ていると、どんな感触なんだろう、という興味がわいてきた。椅子から立ち上がって、引き寄せられるように彼の背中にそっと抱きついた。
 大きく彼の背中が震えたけど、作業をする手は止められないらしい。
 頬にあたる筋肉や骨のかたさが、女である私とは違う性別の人なのだ、と実感させた。
「全然違うのね」
「……危ないですよ」
「お気遣いなく。どうぞ、あなたは作業を続けて」
 私の言葉に甘えたのか、彼は黙々と作業を続けていく。
 じっと背中を見ている時より、彼の筋肉の動きが直接からだに伝わってくるのがくすぐったい。放っておかれているおかげで、それらの感触を存分に堪能することができる。
 二人きりというだけでドキドキするし、こうして抱きついているのもそれなりに勇気がいるのに、彼は何とも思わないのだろうか。この程度では動揺しないだけの経験があるのだろうか。
「女の人と付き合ったことはある?」
「まあ、それなりに」
「……だから、なのね」
「……何が、ですか?」
「私にこうされていても平気な理由」
「切り離してるだけですよ。そうしないと仕事にならない」
「……仕事の邪魔?」
「抱きつかれてちゃ動けません」
「それも、そうね」
 仕事よりも私を気にして、というのは私の勝手な思い。彼の仕事の邪魔にはなりたくないから、彼から離れて椅子へと戻る。
 鍋にフタをして、冷蔵庫から食材を取り出した彼が私へ笑いかける。
「もう抱きつかないんですか?」
「だって、邪魔したくないもの」
「……残念」
「おとなしく見てるわ」
 きれいに磨かれた調理台の隅に頬杖をつき、食材を切っていく彼の背中を見つめる。
 好きな人の背中、二人きりの時間――だけど、襲ってくる眠気は容赦がない。
「どうしよう。……眠いわ」
「部屋に戻られたらどうですか?」
「あなた、眠くないの?」
「午後に仮眠の時間をもらったんで」
 もちろん私は、彼の仕込み当番など知らなかったから仮眠も何もとっていない。耳にリズミカルに入ってくる包丁の音が、眠気へと変わって体を襲う。
 もっと見ていたいのに――。
 記憶のとぎれた私には、その言葉が声になったのか知らない。


 制服へと着替えた私は厨房へと走る。
「お、おはようございます! あの……!」
 厨房ではせわしなく人が動いているけど、そのなかに彼の姿はなかった。
「お嬢様、おはようございます。このようなところへ来られるとは珍しい。どうされましたか?」
 料理長がそっと私の肩を押し、中が見えないように厨房のドアを閉める。
 夜の彼のことを聞いたら怪しまれるだろうか。本来は、私が知るはずのない厨房の裏側である仕込み当番なのだから。
「仕込みをやっていた人は……」
「あいつが何か失礼なことをしたのですな?」
「そうじゃないんです。ただ、ちょっと用があって……」
 長年ここに勤めている料理長をごまかせるのか不安で、多くの言葉を告げることができない。へたに話せばボロを出してしまいそうだ。
「あいつは今寝ておりまして……緊急の用事でしたら私が起こしてきます」
「起こさなくてもいいです。じゃあ、あの……ごめんなさい、とだけ伝えておいてください」
「はい、わかりました」
「ありがとう。お願いします」
 家人のことを詮索しない料理長のそつのなさに感謝した。彼のこと、伝言のことについて追及されてもうまく言い逃れる自信がない。
 とりあえずごまかすことに成功した、と安心して歩き出した時、
「そうそう、お嬢様」
 と料理長の声が聞こえたので振り返る。
「朝食には、あいつが仕込んだ料理が並びますから残されませんように」
 そう言って、料理長は笑顔で厨房へと戻っていった。
 料理長の残した笑顔に、あなたの気持ちはわかっています、と言われたような気がした。
 彼に謝らなければいけないことが、もう一つ増えたかもしれない。
 わずかな不安を抱えつつも、彼の仕込んだ料理、という響きが嬉しくて私は食堂へと向かった。


 ◇終◇


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