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関係:教師と生徒

前作のクリスマスSSの続きです。書きたいと言っていた電話編です。
前作[プレゼント/教師と生徒]とリンクしているので、先にそちらをお読みください。

先生、今回は割とストレートに口説いていやがります(笑) そこまで酔っ払っているわけではないのですが、酒の力を借りるために無意識にいつもより飲んでしまったような。先生的には普通に話せる程度に抑えたつもりながら、やはり酒は酒ということで口がいつもよりツルリと滑ってます。
最後の言葉が先生の耳に届いているかどうか、は読まれた方のご想像にお任せします。最後まで書こうかどうか迷っていたのですが、全部書くのは野暮かと思ってああいう終わり方にしました。まあ、先生の耳に届いていようがいまいが、彼女が即座に電話を切ってしまっているのですが(笑)

さて、今年のSSを含めたサイト更新は今回で終了となります。
年末年始は更新を休止させていただきます。年始の更新開始がいつになるか、今のところ全くわかりません。1月半ばにはSSの一つくらいは……。
今年はSS更新がメインでしたが、気まま更新サイトにお付き合いくださった方々ありがとうございました。皆様、よいお年をお過ごしください。

※注:今年の更新終了報告であって閉鎖報告ではありません(笑)

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 ++ プレゼント~電話編~ ++

 時計は一時半を過ぎようとしている。
 いつも遅くまで起きている、と先生には言ったけど、本当はこれくらいの時間にはもう寝ている。それでも、今晩は不思議と眠気がこない。頭も心も冴えてると言っていいほど。
 机の上に置いた携帯をにらみながら、
「もう……かけてこないわけ?」
 誰にあてるでもなく呟く。
 先生は電話をかけると約束しているわけではない。私が勝手に待っているだけ。
 何か他のことをしながら待とうと思うけど、何かしても携帯電話が目につくと、ついここに戻ってきてしまう。そして、じーっと携帯を眺めるはめになるのだ。
 声が聞きたくなるというのは先生の常套文句なのか、女の人に電話をするなんて先生にとっては特別なことではないのか――どうしても悪い想像が次々と湧いてくる。
 うなるような音と共に突然携帯が震えだした。画面を見ると知らない携帯電話番号。先生だということはわかっているけど、いざかかってくるととっさに手に取れない。あれだけ待っていたくせに、心の準備が出来ていない。
 震える携帯電話は、やがて、かかってきた時と同じくプツリと動きを止めた。切られたのだ。
「あーあ……」
 勇気のない自分が情けない。
 じっと待っていても、先生から電話がかかってくることはない。何度か大きく深呼吸をし、着信履歴を表示させて通話ボタンを押した。

「あの……」
『はい。ああ、こっちからかけ直すよ』

 私の緊張をよそに、あっけなく電話は切れた。でも、電話の向こうから聞こえたのは先生の声。本当に電話したんだ、などと当たり前のことを考える。
 再び携帯電話が震える。もう怖くない。

「はい。……さっきはごめんなさい」
『いや……もう寝てると思ってた』
「起きてます」
『こちらは酔っ払いです』
「しっかり話せてますね」
『そこまでは酔ってないさ。気分を盛り上げるために呑む程度』
「なんだか大人の世界……あ、大人だ」
『いい大人が集まって酒飲んで騒いでるだけ』
「ファミレスで集まって騒ぐくらいしか……」
『まあ、君は高校生だからね』

 事実でどうしようもないけど、先生の言葉が少し心に刺さった。
 お酒にも、お酒の場にも慣れている先生と、ファミレスしか知らない私。酔っ払いと聞いたら、ろれつのまわらない人くらいしか思い浮かばない。適度な酔っ払いというのがわからない。

「先生は……大人だし」
『君が二十歳になったら、いくらでも大人の世界に連れて行ってあげるよ』
「先生のおごりで?」

 ああ、こういうことを言うから私は子供なのだろう。
 言った直後にそう思ったけど、声に出してしまった言葉はもう戻らない。

『俺と二人の時は、君は財布を気にしなくていい』
「う……わ……」
『なに?』
「そんなの言われたことないんで……」
『グラッときた?』
「……うん」

 テレビなどで見ていたら、キザなセリフだと笑っていただろう。
 でも本当に言われると、こんなにドキドキするものなのだ。顔が熱くなるのがわかる。

『食事に酒に、ホテル代も出すよ』
「ホテル?……えっと……それは遠慮しときます」
『そりゃ残念。優しくするのに』
「優しくって言われても……」
『慣れてないだろうから、まずは時間をかけて丁寧に』
「いや、だから……」
『君がイヤだと言ってもしつこく……あっ』

 先生がふいに言葉を切る。
 もう限界だった。こんな言葉のかわし方なんて知らない。押し寄せるドキドキをはねのけるだけで精一杯だ。
 この後に何が続くのかと、緊張しながら先生の続きを待った。

『……かなり酔っ払ってる』
「そう、なんですか?」
『言い過ぎた。困ってたでしょ、君』
「ちょっとだけ」
『無理強いは好きじゃないんだ』
「何もされてませんけど?」
『独りの夜に電話するもんじゃないね。声だけで調子が狂う』
「先生が?」
『こういう時は、酒を抜くためにさっさと寝るに限るね』
「え、もう終わり?」
『まだ話したい?』
「……ちょっとだけ」
『これ以上話したら家に襲いに行くよ?』
「私の家知らないのに?」
『職員室には生徒の情報がたくさんある。俺は教師』
「それって職権乱用」
『嘘、知らないよ、君の家』
「本当に?」
『個人情報は厳重に保管されてます。……ああ、やばい』
「どうしたんですか?」
『酒飲んだせいだ。急激に眠気がきた』
「寝てください」
『もったいない』
「私も眠い」
『それなら……仕方ないね。また……電話しても……』

 先生の声が途切れた後、何かにぶつかるような音がした。
 携帯電話に耳を近づけ、必死に向こう側の音を聞き取ろうとしたけど、音も声も何も聞こえてこない。
 先生は眠気に負けてしまったようだ。

「おやすみなさい」

 携帯電話を耳から離したけど、さらに付け加える。

「また電話してください。先生の声が聞けて嬉しかった……です」

 言い終わって、あわてて通話終了ボタンを押す。
 携帯電話を握り締めたまま十五分ほど放心した後、ゆっくりとベッドへ潜り込む。
 目を閉じても、耳元に先生の声が残っていた――。


 ◇終◇


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