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関係:忍者と姫
場所:姫の部屋
内容:彼の事情を知ってしまった私。「二人で逃げれば……」と言ったが、それができないことは互いにわかっていた。

前回のちょっと激動SSの続きです。
今回でさらに激動の種を撒いてしまったような気がしないでもないのですが……この二人を今後どうしていきたいのか、私もちょっと本腰いれて考えていかなければならないかな、と思ってます。
前回の終わりの割に、今回は普段とあまり変わらないように見える二人ですが、彼がついに本音を吐き出した、ということで進展したつもりです。今までおそらくここまではっきりと口にしたことはないか、と。一応、今までのを読み返してますが、もし言ったことあったならすみません(笑)
さて、今後は二人で一緒になれる方法を探すといった展開になるのでしょうか。たぶんそういう方向にいくだろうな、と漠然と見えているような見えてないような。
彼はあの里の彼女をどうするのだろう、姫の父はあの事実を知ってるのだろうか……いろいろな人の思いが気になりますが、きっと一筋縄ではいかない展開になると思うので、マイペースにぼちぼちと書いていきます。

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 ++ 道 ++

 言えない想いだけでなく、真実をも知ってしまった私は、なんとも言えない苦しみを持て余しながら、ただ夜を待ち、そのために手足を動かしていた。
 そして、月明かりだけがさしこむ部屋で彼をじっと待つ。
 黒い人影が見えた瞬間、私は走り出した。手を伸ばして体温を持った黒いものへ抱きつく。
 私の背へ手をまわすこともなく、彼はじっと立っていた。
「ずっと、あなたは一人で抱えていたのね」
 私の肩をつかんで彼が引き離す。
「何を……知った?」
「あなたの許嫁のこと、それから……」母様もこんな風に物言わぬ忍の瞳を見つめたのだろうか。「母様のこと」
 誰に聞いた、と彼は問うてはこない。おおよその見当はついているのだろう。
 肩からそっと手を放し、彼は逃げるように後ずさる。
 秘密を知った私から去るのだろうか。追いかけようと踏み出した時、私の足を制止するように彼がぽつりと呟いた。
「……娘がいる、と」
「私のこと?」
「おぬしに関わったは……我の好奇」
 二歩進み、彼の手をとる。もう、彼は逃げなかった。
 その冷たい手を頬にあてると、木の香りが鼻をかすめる。
「私、あなたはずっと独りなのだと思っていたわ。でも、あなたには里も家もあって一緒になる人もいる。初めて気づいたの」
 彼に言ったことで、ずっと心の中にあった思いが決心へと変わった。

――自分が好いた男をそんな目に遭わせたいのかい?

 彼と同じ世界に住む女性の言葉がよみがえる。
 私は城の姫で、彼の住む忍の世界のことを何も知らない。彼が抱えているものの大きさもわからない。たとえ命を捨てる覚悟で逃げても、満たされるのは私の想いだけかもしれない。彼の負担にはなりたくない。
 彼の手を放し、私は背を向けた。
「好奇ならここで手を引いて。私はもう想いを止められないの。あなたなら止められるのでしょう?」
 会うたびに募る気持ち。真実を聞いて、さらに膨らんでしまった気持ちは、もう自身の理性で止められないところまできている。頭の理解でどうこうできるものならば、ここまで溺れたりはしなかっただろう。
 後ろからは何も聞こえてこない。振り向けば彼がどの答えを選んだのかわかるが、そこから目をそむけたい気持ちが、顔を後ろへ向かせないのだ。
 そっと、後ろから回された腕が私の肩を包む。
「我にも……」
 声にこめられた悲痛さに思わず振り向いた。
 彼は素顔を月明かりの下に露わにしていた。苦しげな目が私を見下ろしている。
 吸い寄せられるように互いに顔を近づけ――唇を重ねた。
 熱いものが歯の間をぬうように入ってくる。そのような口付けをしたことはなかったが、彼の舌を受け入れたとたん、閉じた瞼の裏から涙が溢れてきた。嗚咽をもらすかわりに、貪るように彼の舌を唇を吸った。
 彼の唇が離れると共に、心と体からふっと力が抜けた。
「もう、止められぬ」
「二人で逃げれば……」
 私を支えるように抱きしめる彼の腕が反応する。やはり、彼は怖れているのだ。
 共に死ぬのならば、彼には離れていても生きていてほしい。私には、母様と同じ道は選べそうにない。
「……心を凍らせればよい」
 冷たく低い彼の声。
 想いがあるから葛藤することになる。ならば、想いを封じればいい。的確な答えだったが、そう簡単にいかない。
「私は誰とも一緒にならない。あなたが誰かと共になるのを黙って見ているのも嫌なの」
「我らの道、交わることはない」
「本来は会うこともない私たちが出会ったの。交わる方法を探すわ。だから、それまで……」
 私の前から消えたりはしないで、他の人と一緒にならないで――。
 言葉に出せば本当に彼が来なくなるような気がして、私は声を飲み込んだ。
「我は影。常に光の傍にある」
 短い言葉と強く抱きしめる腕。
 やがて、彼が月の下へ去っても、腕の感触と熱はしばらく私の体にとどまっていた。


 ―了―


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